Chapter5:Habitat fragmentation and landscape change
Andrew F. Bennett and Denis A. Saunders
自然植生の広範囲にわたる破壊と断片化は、世界中の人類の土地利用の目に見える結果であり(第4章)、それは個体群や種の世界的な減少(第10章)、在来動植物群の改変、生態系プロセスの変化(第3章)の主要な要因である。生息地の断片化は、連続した生息地が別々の部分に分断され、①生息環境の損失、②生息地の断片化、③土地利用の改変が起こる。この章では、(i)断片化が種や群集の出現パターンにどのような影響があるのか。(ii)景観の変化は種や群集の分布や生存に寄与するプロセスにどのような影響があるかについて述べる。
5.1景観変化の影響を理解する
5.1.1概念的アプローチ
島の生物地理学の理論は、種の豊かさが新種の定着率と既存種の絶滅率との間の動的バランスを表すと予測した。生息地の孤立も、開発された土地の「海」の中の「島」とみなすことができ、この理論が生息地の断片化に関連する多くの研究を刺激した。また、ランドスケープ・エコロジーの発展は、生息地の断片や景観の変化に関する新しい考え方(パッチ、コリドーなど)に貢献した。断片化による孤立は、似た生息地からの距離だけでなく、景観内の位置、周囲の土地利用の種類、それらが生物の動きにどのように影響するかにも依存する。生息地の改変には以下の4段階がある元の景観 → 多彩な景観 → 断片化された景観 → 元の植生がほとんどない景観。異なる段階は、保全管理のため、異なる種類の課題を提起する。多くの種は複数の断片に存在する。これらの種は、景観が「生息地」と「非生息地」の対比ではなく、質の異なる土地利用のモザイクを表す。景観をモザイクとして認識することは、景観の中のすべてのタイプの要素を理解する必要性を強調する。また、異なる生態学的属性(移動距離、寿命等)は、同じ景観でも種ごとに適合性が異なることを示す。
5.1.2断片vs景観視点
景観の変化が断片レベルと景観レベルの両方でどのような影響を及ぼすかを検討することは重要である。なぜなら、(i)景観は断片とは異なる性質を持っている(図5.1)。(ii)多くの種が景観の中で移動し、複数のパッチを使用する。(iii)保全管理者は、景観全体の望ましい特性の理解が必要である。
5.2風景の変化の生物物理学的側面
5.2.1景観パターンの変化
景観変化は動的である(図5.2)。経時的な変化は(i)総面積の減少(ii)大きな断片の減少(iii)類似の生息地からの孤立の増加(iv)直線的な形状が挙げられる。景観レベルでは、空間パターンを定量化するために様々な指標{(i)断片数(ii)まとまり(iii)形状の複雑さ(図5.3 )}が開発されている。景色の変化はランダムではなく、ある領域で不均衡な変化が起こる。断片化はより低地の平らな地域とより生産性の高い土壌で起こる一方、大きな断片は、急な斜面、貧しい土壌、定期的に浸水する氾濫原で持続する可能性が高い。また、多くの断片や撹乱の経験が過去の定着と土地利用の遺産として残っているため、景観の変化には歴史的な影響が強くある。土地利用の履歴は、現在の断片の分布と断片内の生態系の状態の有効な予測値となりうる。将来の管理に向けて生態系のプロセスや過去の変化を理解する必要がある。
5.2.2生態系プロセスの変化
断片化による影響は“縁”でよく起こる。小さな断片と複雑な形状のものは、最も強い「エッジ効果」を体験する。例えば、開けた土地に隣接する林縁の微気候は、入射光、湿度、地面および気温、風速などの属性が森林内部と異なる。そして、これらの物理的変化は、落葉の分解や栄養循環、植生の構造や組成などの生物学的プロセスに影響を与える。
5.3種に対する景観変化の影響
種は、生息地の断片化に対する多くの種類の反応を示す。ある種は優位性を持ち、豊富さが増加するが、ある種は減少し、局所的に消滅する(第10章を参照)。これらの多様なパターンとそれらの根底にあるプロセスを理解することは、保全のための不可欠である。断片化された景観を管理する者は、どの種がこれらのプロセスに対して最も脆弱であるかを知る必要がある。
5.3.1断片化された風景における種の出現パターン
多くの研究は、景観における異なるサイズ、形状、組成、土地利用および状況の断片での種の存在を記述している。主に断片化された生息地に依存する種については、断片の大きさが存在の可能性に重要な影響を与える(図5.4)。異なる種類の生息地(例えば、狩猟地と繁殖地)を必要とする種は、これらの生息地が孤立すると非常に不利になる可能性がある。孤立化は必要なリソースを得るために景観のさまざまな場所を移動するのを困難にさせる。種の生存に影響を及ぼす他の属性(断片サイズに加えて)には、生息地のタイプ、質、形、隣接する土地利用、広い景観が集団を隔離する程度が含まれる。保全のための重要な問題は、生息地の損失と生息地の断片化の相対的重要性である。つまり、どのくらいの大きさの生息地が景観に残っているか、どう断片化しているかの相対的な重要性を知ることである。
5.3.2断片化した風景の種に影響を及ぼすプロセス
個体群の規模は、出生、死亡、入植、移出の4つのパラメータのバランスによって決まる。個体群サイズは、出生と入植によって増加するが、死亡や移出はサイズを減少させる。断片化された景観では、これらの個体群パラメータは、いくつかのカテゴリのプロセスによって影響を受ける。
決定論的プロセス
断片化された景観の個体群に影響する多くの要因は、その影響が比較的予測可能である。個体群は、殺虫剤、ヒトの狩猟、植物の採取、動物のロードキルを招く道路の建設によって個体が死亡することで減少する可能性がある。一般的に個体群は、伐採、家畜の放牧のような要因の影響を受け、生息地の質を変え、個体群増加に関わる改変された撹乱の要因の影響も受ける。
孤立
集団の孤立は、生息地の断片化の根本的な結果である。入植と移出を制限することで、地域個体群に影響を与える。種は、移動のタイプ、移動のスケール、夜行性か日周性か、そして景観の変化に対する反応に依存して孤立に対する感受性が異なる。そのため、ある種の個体群は高度に隔離されるが、別の種は自由に動くことができる。孤立は、いくつかの移動タイプ{(i)異なる要件(食物、避難所、繁殖地)を得るための定期的な移動。(ii)地域、大陸または大陸間スケールでの種の季節的または回遊性の移動。(iii)個体数を補完したり、遺伝子の交流を増やしたり、地域個体群が消滅した場合に再入植する断片間の分散移動}に影響する。多くの生物にとって、孤立の悪影響は、連結性を高める(「コリドー」または「飛び石」)ことで減少する。
確率過程
個体群が小さくなり孤立すると、より大きな集団にほとんど脅威を与えない確率的なプロセスに弱くなる。例えば(i)出生率、死亡率、子孫の性比などの統計学的パラメータ変動。(ii)近親交配、遺伝的流動、創始者効果による遺伝的変異性の損失。(iii)個体群の出生と死亡率に影響を与える、雨量や食糧源の変動などの環境の変動。(iv)洪水、火災、干ばつ、ハリケーンなど
5.3.3メタ個体群と細分化された集団の保全
種が時々移動することで局所個体群が相互に結びついている場合、種は高い持続性を持つ可能性が高い。このような集団は、「メタ個体群」と呼ばれ、主に2つのタイプある(図5.5)。パッチ的に分布する種の保全管理は、個体群に焦点を当てるよりも、メタ個体群としてアプローチすることによって、より効果的である可能性が高い。しかし、移動がほとんど起こらない機能不全のメタ個体群や移動が頻繁な個体群もある。
5.4景観変化が群集に及ぼす影響
5.4.1断片化された景観における群集構造のパターン
種の豊富さは、断片の大きさと正の相関があり、種数面積関係として広く知られている(図5.6a)。小さい面積の生息地は(i)多様性が低く(ii)維持できる集団サイズが小さく(iii)元の生息地のよりも種数が少ない可能性がある。これらのメカニズムを区別することは難しいが、生息地が細かく断片化されると種が失われるのは明確である。断片の空間的および時間的な隔離、土地管理または生息地の質など、面積以外の要因もまた、断片的な地域群集の豊かさの重要な予測因子となりうる。断片内の動物群の組成は、一般に、断片の大きさに関連する系統的変化を示す。小断片内の種が乏しい集団は、通常、より大きくより豊富な断片に存在する種のサブセットを支持する(表5.1)。
5.4.2群集構造に影響を与えるプロセス
捕食、競争、寄生、相利共生などの種間の相互作用は、地域群集の構造に大きな影響を与える。種の喪失またはその豊富さの変化は、特に多くの種と相互作用する種については、断片化した景観全体の生態学的プロセスに顕著な影響を及ぼす可能性がある。多くの相利共生は、無脊椎動物、鳥類または哺乳動物による顕花植物の受粉のような、植物と動物との間の相互作用を含む。断片化の結果としての動物媒介者の存在または量の変化は、このプロセスを混乱させる可能性がある。
5.5細分化された景観の時間的変化
生息地の喪失と断片化は何十年にもわたって、残りの生息地が破壊されたり、サイズが縮小したり、さらに細分化する(図5.2)。すなわち、断片化の完全な影響を経験するのに時間的な遅れがある(Box 5.1参照)。
5.6断片化された景観の保全
断片化された景観における生物圏の保全は、将来の生物多様性の保全の成功と人間の福利に不可欠である。以下は、断片化した景観における戦略的な保全アプローチに必要な6つの措置である。
5.6.1生息地の保護と拡大
・生息地のさらなる破壊と分断を防止する。
・既存の断片のサイズと景観の生息地の総量を増やす。
・保全のために管理されている地域を増やす。
・大きな断片を保護することを優先する。
5.6.2生息地の質を高める
・外来植物や動物の侵入などのプロセスの悪化を制御する。
・収穫する天然資源の程度と影響を管理する。
・植物の成立に適した自然撹乱レジームと条件を維持する。
・特定の種が必要とする特定の生息地機能を提供する。
5.6.3景観全体を管理する
・除草剤や防虫剤、土壌侵食、汚染、栄養の添加など、断片の境界を越えて悪影響を及ぼす特定の問題を管理する。
・水文学的状況の変化や道路やその他の障壁の密度など、広範囲にわたる土地モザイクの物理的環境や構成に影響を与える問題に対処する。
5.6.4景観の連続性を高める
・川沿いの植生、生垣などの既存の接続機能を保護する。
・接続の隙間を埋めるか、喪失した接続を復元する。
・移動性生物(例えば、回遊性生物)の飛び石的な生息地を維持する。
・保護区域間の広範な生息地のつながりを保持する。
・生息地の地域的および大陸的ネットワークの開発(Box 5.2および5.3参照)。
5.6.5長期的な計画
・現在の知識を用いて、景観変化が起こった場合の結果を予測する。
・将来の代替選択肢を検討する手段としてシナリオを開発する。
・特定の地域の広いコミュニティー、土地利用および保全目標によって共有される長期ビジョンの策定。
5.6.6保全活動から学ぶ
・保全対策をより効果的に評価し、洗練していく管理と研究を統合する。
・選定した種および生態学的プロセスの状態を監視して、より長期間の結果および保全活動の有効性を評価する。
Chapter4:Habitat destruction: death by a thousand cuts
生息地の破壊が生物多様性にもたらすこと
過剰収奪(狩猟、漁獲、採取)が生物多様性にもたらすこと
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