Regeneration nicheとは

概要

・Regeneration niche(更新ニッチ)は1977年にGrubbが提唱した概念。

成熟個体が種子生産、種子散布、実生の定着、成熟するまでの生長(更新段階)を経て新たな成熟個体と置き換わるために必要な生物的、非生物的な条件


Regeneration nichの登場

Regeneration nicheは1977年にPeter Grubbが "The maintenance of species‐richness in plant communities: the importance of the regeneration niche, Biological reviews" の中で提唱した植物の共存を説明するニッチの1つ。

※Regeneration niche以外にはHabitat niche, Life-form niche, Phenological nicheが挙げられている。

※日本語では「更新ニッチ」と呼ばれる(大串ほか 2020)。

 

Regeneration nichの定義

Grubb (1977)はregeneration nicheの定義として

"an expression of the requirements for a high chance  of success in the replacement of one mature individual by a new mature individual of the next generation, concerning all the processes and characters indicated in Table 2."

"The regeneration niche includes elements of both address and profession."

と記した。

 

 翻訳すると以下のようになる。

「表2に示されたすべてのプロセスと特性について、1つの成熟した個体が次世代の新しい成熟個体と入れ替わるのに高い確率で成功する条件を表現したもの。」

「更新ニッチは住所(生育場所?)と職業(機能?)の両方の要素を含む。」

 

表2:ギャップの侵入に成功するプロセスと重要と考えられるギャップの特徴

ギャップ侵入のプロセス

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Production of viable seed:

生存可能な種子の生産

Flowering:開花 

Pollination:受粉 

 Setting of seed:結実

Dispersal of seed:種子散布

 Through space:空間的な分散 

 Through time:時間的な分散

Germination:発芽

Establishment:定着

Onward growth:その後の生長

ギャップの特徴

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Time of formation:形成時期

Size and shape:大きさと形状

Orientation:幾何学的配置

Nature of soil surface:土の表面の性質

Litter present:リターの存在

Other plants present:他の植物の存在

Animal present:動物の存在

 Fungi, bacteria and viruses present:

菌類、バクテリア、ウイルスの存在


 

 

Regeneration nicheについて説明する文章

上記から、

更新ニッチとは「種子生産から成熟するまでの種が生存するのに必要な条件」であると捉えることができた。

しかし、うまく言語化できていない感があるので、先人の表現をみてみよう。

 

Poorter et al. 2007

 

~ regeneration niche as the biotic and abiotic species requirements to replace a mature individual.

成熟した個体を置き換えるための生物的・非生物的な種の要件

 

 

Smith et al. 2016 

The regeneration niche defines the conditions required for viable seed production, dispersal, seedling establishment and growth to maturity in plant populations.

植物個体群の生存可能な種子生産、散布、実生の定着、および成熟までの生長に必要な条件

 

Marques et al. 2014

The regeneration niche hypothesis predicts that the regeneration stage is of major importance for understanding how abiotic and biotic factors structure species-rich plant communities and allow the coexistence of closely related species.

更新ニッチ仮説は、生物的・非生物的要因がどのように種が豊かな植物群集を構成し、近縁種の共存を可能にしているかを理解する上で、更新段階が重要であると予測している。

 

以上を踏まえて、更新ニッチとは、「成熟個体が種子生産、種子散布、実生の定着、成熟するまでの生長(更新段階)を経て新たな成熟個体と置き換わるために必要な生物的、非生物的な条件」である。という理解かなと思いました。


  • Grubb, P. J. (1977). The maintenance of species‐richness in plant communities: the importance of the regeneration niche. Biological reviews, 52(1), 107-145.
  • Marques, A. R., Atman, A. P., Silveira, F. A., & de Lemos-Filho, J. P. (2014). Are seed germination and ecological breadth associated? Testing the regeneration niche hypothesis with bromeliads in a heterogeneous neotropical montane vegetation. Plant Ecology, 215(5), 517-529.
  • Poorter, L. (2007). Are species adapted to their regeneration niche, adult niche, or both?. The American Naturalist, 169(4), 433-442.
  • Smith, A. L., Blanchard, W., Blair, D. P., McBurney, L., Banks, S. C., Driscoll, D. A., & Lindenmayer, D. B. (2016). The dynamic regeneration niche of a forest following a rare disturbance event. Diversity and Distributions, 22(4), 457-467.
  • 大串隆之, 近藤倫生, & 難波利幸. (2020). シリーズ群集生態学 1, 生物群集を理解する. 京都大学学術出版会. pp392

おまけ

表2の各プロセスと確認されているニッチ分割の例(かなり雑です、メモしただけです)

生存可能な種子の生産

森林群集の種子生産パターンには以下の3パターンがある。

(a)ほとんどの年で中程度

(b)不規則な結果(fruiting)

(c)周期性の強い多くの結果

(b)のパターンを示す種は、種によって種子生産量が多い年、少ない年がある。

 種Aの種子生産が多い年は種Bが少ない

→ 同じ年に結果しないようなニッチ分割が起きている?

また、これには開花、受粉、結実のプロセスも関係している。

 

種子分散

種によって種子分散距離が異なる。

 →種間競争にあまり適さない種は広範囲の分散能力を持つ。

様々な分散様式があり、相対的な有効性は年ごとに変化する。

土壌シードバンクが存在し、種によっては何十年も前の種子から再生が可能である。

 

発芽(種子から発芽までの間)

発芽条件として、温度、硬皮の分解、水分量など様々である。

日陰で発芽する種もいれば、明るい場所でしか発芽しない種もいる。

小さなギャップで発芽する種や、大きなギャップでの乾湿の繰り返しが必要な種がいる。

秋に形成されたギャップで発芽する種(Epilobium hirsutum)、春に形成された場所で発芽する種(Lythrum sulkaria)がいる。

春と秋に発芽する種や、一年を通して不連続に発芽する種がいる。

発芽速度の違い。

 

実生の定着(発芽から未成熟期までの間)

樹種によって、倒木の幹で定着するもの(Picea sitchensis)や地表に定着するもの(Thuja plicata)がいる。

ある種の定着に有利な年もあれば、他の種の定着に有利な年もある。

実生から苗(sapling)や未成熟期(immature)への変化途中での照射の効果、水分供給の違いが影響する。

 

未成熟な植物の発達(未成熟期から成熟までの間)

いくつかの森林樹種ではこの段階での光の要求性が異なる。

ヒースランドにおいて、実生の早期定着には小さい更地(5×5cm)だ適しているが、2年後にはより大きい更地(50×50cm)の方が単位面積当たりの生存種が多い。